#FACTFULNESS/10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
#ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド、上杉周作(訳)、関美和(訳)
#日経BP
本の紹介の前に時間がある方は、本書の冒頭で紹介されたクイズにチャレンジしてみてほしい。
質問は全部で12問、A・B・Cの選択肢で、世界の事実に関するクイズが出題される。
仮にこのクイズをチンパンジーに出すと正答率は1/3のため、全部でだいたい4問正解することになる。あなたはチンパンジーに勝つことができるのか…!
『ファクトフルネス』 チンパンジークイズ ファクトフルネス共訳者(上杉)作成
皆さんは何問正解したのだろうか?もしかしたらこの本を読んだことがない人は、正答率が低く驚いているかもしれない。
だが安心してほしい。著者は過去に講義を行った有名大学の生徒たちや各国のお偉いさんなどあらゆるところでこのクイズを実施したが、ほとんどの人がチンパンジーの正答率である33.3%を超えることができなかったからだ。
そうして著者は気がづいた、世界の事実を正しく見るためには大事なのは情報量や知識ではないということに。そして研究していくうちに多くの人が正しく事実を見ることができてない原因は人間の脳の機能にあると結論付けた。
本書について
あなたは、次のような先入観を持っていないだろうか。
「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源がもうすぐ尽きてしまう。」(中略)
わたしはこれを「ドラマティックすぎる世界の見方」と呼んでいる。精神衛生上よくないし、そもそも正しくない。
つまり私たちは脳の機能によって「ドラマティックすぎる世界の見方」をしてしまうことで、こんなに情報があふれている現代において正しく事実を見ることができなくなっていることに著者は警鐘を鳴らしているのである。
本書では人間の思い込みを引き起こす10個の本能を分かりやすい例を挙げながら説明し、その本能を抑制するための方法を具体的が書かれている。本書を読むことで私たちは世界の事実をデータを基に正しく考えられるだけでなく、情報を提供している側の思惑に気づき騙されにくくなるということも可能にする。
今回の記事では本書の内容を簡潔にまとめているため参考にしてほしい。そしてもっと詳しく知りたい方はぜひ本書を手に取ってみてほしい。
10のドラマティックな本能
①分断本能…人々は「金持ち」VS「貧困」、「先進国」VS「途上国」
50年前はあらゆるデータから世界を二つに分けることができ、その間には分断があった。しかし今や世界の75%は中所得層であり、高所得層と中所得層を合わせると人類の91%になる。(これは人道主義者だけでなくグローバル企業にとっても喜ばしいことである。なぜなら世界には50億人の見込み客がいるからだ。このような人たちを「貧困層」だと思っているうちは、ビジネスチャンスに気づけないだろう)
分断本能を抑制するために…
⑴平均の先にある「分布」に着目する(二つのグループには重なりがあり、分断などないことが多い)
⑵両極端な例に注意する
⑶上からの景色(高いところから見るとどれも同じくらい低く見えるが、実際は違う。)
②ネガティブ本能…「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
ネガティブ本能を抑制するために…
⑴「悪い」と「良くなっている」は両立する
⑵悪いニュースは広まりやすいことに気づく
⑶美化された過去に気を付ける
③直線本能…「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
直線本能を抑制するために…
⑴すべてのグラフが直線にならないことを知っておく(s字カーブ、こぶの形、倍増)
⑵グラフを知り見えない部分を不用意に憶測しない事
④恐怖本能…危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
◎この本能を刺激するか否かを判断基準にするメディアも多い
◎規制が厳しくなる理由の多くは死亡率ではなく恐怖によるもの(例:原発事故など、目に見えない物資への恐怖が暴走し物質そのものよりも規制のほうが多くの被害を及ぼしている)
恐怖本能を抑制するために…
⑴リスクを正しく計算すること⇒リスク=「危険度」×「頻度」
⑵行動するまで落ち着こう(パニックが収まるまで、大事な決断をするのは避けよう)
⑤過大視本能…「目の前にある数字が一番重要だ」という思い込み
◎数字の裏にある物語を見ようとすることが大切
過大視本能を抑えるために…
⑴「比較」(過去、他の物との比較)
⑵「割り算」(国や地域を比較するときは「ひとりあたり」に注目しよう。)
⑶「80:20ルール」まず大きな項目だけに注目
⑥パターン化本能「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
◎人はいつも、何も考えずに物事をパターン化し、それをすべてに当てはめてしまう
◎ステレオタイプなどの間違ったパターン化は思考停止につながる(ビジネスチャンスをも逃す、事業戦略=事実をもとに世界を見つけ、そこから未来のユーザーを見つけること)
◎日常にパターン化は不可欠だが間違った分類に気づき、より適切な分類に置き換えることが大切
◎認識の切り替えにはたくさん旅をすること
※旅行なんて簡単にできないよ…という方には本書でもお勧めされていたドルストリートをのぞいてみる方法がある。
Dollar Street – photos as data to kill country stereotypes (gapminder.org)
Dollar Streetは、ファクトフルネスの著者である故ハンス・ロスリング氏の娘婿であるアンナ・ロスリング氏によって作成されたサイトである。世界中の日常生活の住まいの様子を写真を見比べながら、所得による生活の違いはどんなものなのかをより正確に洞察できる。
パターン化本能を抑制するために…
⑴同集団内の違いと、違う集団の間の共通点を探す
⑵「過半数」に注意する
⑶例外に気づく
⑷自分が「普通」だと決めつけない
⑸ひとつのグループの例を他のグループに当てはめていないか振り返る
◎相手が賢いという前提に立って、なぜこのやり方が理にかなっているのかと問う
◎分類を疑う、強烈なイメージには注意
⑦宿命本能…持って生まれた宿命によって、人や国や宗教や文化の行方が決まるという思い込み
◎メディアは文化的変化報道していない、ゆっくりした変化でも変わってないわけではない
宿命本能を抑制するために…
⑴小さな進歩を追いかける
⑵知識をアップデートする
⑶祖父母に話を聴く
⑧単純化本能…世界の様々な問題にひとつの原因と一つの解を当てはめてしまう傾向
◎自分に合わない新しい情報や専門以外の情報を進んで仕入れよう
単純化本能を抑制するために…
⑴知ったかぶりをやめよう
⑵数字だけに頼らない(数字だけでは世界を理解できない)
⑶単純なものの見方と単純な答えには注意しよう(ケースバイケースで問題に取り組む)
⑨犯人捜し本能…悪い物事が起きた時に、単純明快な理由を見つけたくなる本能
◎誰かを責めることに気持ちが動くと、学びが止まる
◎犯人を捜すよりもシステムを見直すべき
犯人捜し本能を抑制するために…
⑴犯人ではなく原因を探す(誰かに責任を求める癖を断ち切る)
⑵仕組みに目を向ける
⑩焦り本能…「今すぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
◎焦りから冷静に分析する力が失われてしまう
焦り本能を抑制するために…
⑴小さな一歩を重ねること
⑵データにこだわる
⑶過激な対策に注意(副作用を考える、地道に一歩一歩進みながら、効果を測定する)
最後に…
「ファクトフルネスを実践しよう」
新しい情報を積極的に探し受け入れること、そして定期的に世界の見方をアップデートすることが大切である。そしてすべての人間が生まれ持つ本能を正しく認識して適切な距離を取りながら、世界の情報に触れていくことが重要であるのだ。
今から教育で、ビジネスで、報道で、組織やコミュニケーションの中で、そして個人としてファクトフルネスを実践しよう。
感想
実は私がこの本を読んだのは二回目である。一回目は高校生の頃、コロナ真っ只中の2020年に部活の顧問の先生が13の質問を部員にやってみてと投げかけてきたことがきっかけである。私はこの本で紹介された多くの人々と同様に、チンパンジー以下の正答率であったことに衝撃だったことを思い出す。こんなにも世界を歪んだ目で見ている自分に驚き、学校が再開した頃に本書を図書館に借りに行った。当時は結局最後まで読み切れなかったのだが、数年が経ち、たまたま本書を見つけ再度読んでみることにした。ページ数は350ページほどあり、もしかすると今回も読み切れないかもしれないと不安になったが、全くそんな心配は必要なかった。読み始めてみると文章構成、図やグラフなどとても分かりやすく、気づいたらこの本に惹き込まれあっという間に読み終わってしまった。
メディアでは私たちの不安をあおるようなニュースを流している。それを普段から目にする私たちは、「世の中には自然災害や紛争などの社会問題、貧困や格差など様々な問題があり世界はどんどん悪い方向に向かっている。」と思うのも無理はない。しかしそれは本当に正しいのだろうか。もちろん世界ではまだ深刻な貧困状態や紛争などで命を落としたり苦しい生活を強いられている人たちが存在する。一方で何十年も前に比べたらその数は劇的に減っているのである。この本を読んで自分が生きる世界について現実的に捉え希望を持つことができるそんな前向きな本がFACTFULNESSであると思う。一人でも多くの人がこの本を手に取り、人間の本能を理解して「事実に基づく世界の見方」を身につけたら、今よりもっと素敵な世界が待っているだろうと感じた。
父の中にはいつも世界を心配する気持ちとあふれるほどの人生への喜びがあった。
この本は著者であるハンスロスリング氏が余命宣告を受けた後に執筆されたものであり、人生をかけて広めようとした「事実に基づく世界の見方」を、人々が生まれ持つ10の本能に分類して様々なデータを基に明快に解説されている。
本の中には彼自身の何十年も話すことができなかった、本能に支配されたことで犯した過ちを例に出す場面が何度かあった。そのような人生における失敗や後悔を抱えつつも、今後同じことが起きないようにと正しく世界を見る為の知識を広め少しでも良い世界を創造すること、そして事実を正しく見ることで人々を不必要な不安や恐怖から解放し人生を豊かにすることを目指した彼の信念の強さがうかがえる。例えば元々医師として働いていた彼が、自分のせいで救える命を救えなかったという経験は普通ならなかなか言い難いことであるだろう。それでもその事実や経験を伝えることで多くの読者がFACTFULNESSの重要性を身に染みて理解するのである。本能に支配されて犯した過ちに気づき、そんな自分や他者を認めて前に進むための勇気を与えてくれるパワーが本書にはあると感じた。
事実に基づく世界の見方を学びたい人、これからの世界に不安を感じている人、情報に惑わされず生きていきたい人、世の中を正しく見てビジネスチャンスを逃したくない人、そんな人におすすめしたい。
とは言いつつもこの本はどんな人でも一度は手に取ってみてほしい。とても読みやすく、自分の思い込みや常識が覆されてる体験を一度は感じてみてほしい。少し分厚くひるむ方もいるかもしれないが、そんな時は気になる章から読んだり、先に各章の最後に記載されている1〜2ページのまとめを読んだりするなど、自分に合った読み方で読み進めて見てほしい。
本書がたくさんの人に届き、著者の願いである多くの人が事実に基づいて世界を見る日がやってくることを楽しみに、FACTFULNESSを実践しながら生きていこうと思う。
ハイライト
「悪い」と「良くなっている」は両立する。
平和な世界は、上の世代が私たちにくれた、儚い贈り物だ。大事にしよう。
規制が厳しくなる理由の多くは、死亡率ではなく恐怖によるものだ。
危険と恐怖は違う。
パニックが収まるまで、大事な決断をするのは避けよう。
数字の裏側にある物語を見ようとすることも大切だ。
人はいつも、何も考えずに物事をパターン化し、それをすべてに当てはめてしまう。
「自分の分類の仕方は間違っているかもしれない」といつも疑ってかかったほうが良い。
相手が賢いという前提に立って、こう問うてみるべきなのだ。なぜこのやり方が理にかなっているのか、と。
自称「自由なメディア」が、世界で最も急激な文化的変化を報道していないことは、少なくとも確かなようだ。
ゆっくりした変化でも、変わっていないわけではない
積極的に知識をアップデートする
自分の意見に合わない新しい情報や、専門以外の情報を進んで仕入れよう。
誰かを責めることに気持ちが動くと、学びが止まる。
物事がうまくいかないときは「犯人を捜すよりもシステムを見直したほうがいい」
恐れに支配され、時間に追われて最悪のケースが頭に思い浮かぶと、人はおろかな判断をしてしまう。
いますぐ決めろとせかされると、批判的に考える力が失われ、拙速に判断し行動してしまう。
気になる方はこちらからチェック!
コメント